UURでは、ESG情報開示の効率化・最適化に努めています。昨今、非財務情報において取り扱う指標の範囲が広く、開示を行う企業の業種や提供する役務の違い等によりバラつきが生じることから、Sustainability Accounting Standards Board(米国サステナビリティ会計基準審議会)が定める不動産業種に適した基準に従ってSASBレポートを作成しています。これにより、UURが開示している非財務情報が、投資主の皆様のニーズに応えつつ、開示の質的向上に貢献することを願っています。
なお、本SASBレポートはUURの決算期(5月・11月)に基づき、2023年11月末時点のものとなっています。また、各表の建物用途の定義は以下のとおりです。
SASB 開示指標 コード |
開示指標 | ポート フォリオ 全体 |
オフィス | 商業施設 (中・小型) |
商業施設 (大型モール) |
ホテル | それ以外 | 単位 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
IF-RE-130a.1 | エネルギーデータ カバー範囲(注1) |
94.0% | 97.9% | 92.6% | 100% | 100% | 78.0% | 床面積による% |
IF-RE-130a.2 | データカバー範囲に おける総エネルギー 消費量 |
314,768 | 89,682 | 17,904 | 68,276 | 95,494 | 43,392 | MWh |
うち購入した 電力の割合 |
70.7% | 76.1% | 72.3% | 79.3% | 46.5% | 98.5% | % | |
参考: | 敷地内での 再生可能エネルギー 生成量(注2) |
1,921,459 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1,921,459 | kWh |
IF-RE-130a.3 | エネルギー消費量の 同一条件比較(注3)に よる前年比変化率 |
+6.5% | +6.1% | +3.4% | +5.0% | +15.7% | ▲3.7% | % |
同一条件比較の 対象カバー範囲 |
94.2% | 98.9% | 100% | 100% | 100% | 80.4% | 床面積による% | |
IF-RE-130a.4 | エネルギー 格付(注4)を保有 している物件の割合 |
24.0% | 14.5% | 19.5% | 8.2% | 27.8% | 46.2% | 床面積による% |
参考: | グリーンビル 認証(注5)を保有 している物件の割合 |
54.5% | 85.4% | 33.2% | 91.8% | 14.0% | 24.7% | 床面積による% |
UURでは、不動産運用に関わるエネルギー管理が環境への影響、不動産運営コストへの財務的影響がともに大きい課題であることから、特に取り組みを強化すべきESGに関する重要課題(マテリアリティ)の一つに設定しています。エネルギー消費に基づくGHG排出については、日本政府の「業務その他部門」の削減目標に準じて、オフィスポートフォリオにおいて2014年対比40%削減を目指しています。
UURは、2012年に制定された環境方針(環境方針は、2022年3月にサステナビリティ方針に改定しました。)に従い、不動産運用に関わるエネルギー管理に取り組んでいます。UURは、保有する不動産におけるエネルギー使用量と延床面積等を勘案して算出されるエネルギー原単位について、国が求める努力目標「5年平均原単位年1%以上の低減」の達成に努めています。エネルギー管理を推進する社内組織として「省エネ推進委員会」及び「省エネ推進分科会」を設置しており、外部専門家の助言も得ながら、エネルギー消費削減を図っています。
UURの不動産投資運用プロセスにおいては、次に述べるようにエネルギー管理の観点が組み込まれています。
UURの運用会社であるMRAでは、環境マネジメントシステムを通じ、環境パフォーマンスの改善に向け、継続的・体系的な取り組みを進めています。運用する不動産のエネルギーデータを定期的に開示しており、国が求める努力目標を達成した事業者として、経済産業省の事業者クラス分け評価制度において最高位「S」ランクの評価を8年連続で獲得しています。
UURのポートフォリオのエネルギー消費状況の管理・モニタリングでは電力会社のホームページを通じて、正確かつタイムリーなデータを効率的に集計し、専用のITシステムにより把握・管理しています。
新規物件取得におけるデューデリジェンス時には、確認必須項目として、環境認証の取得状況や将来的な可能性、エネルギー使用の効率性等の定性的評価を行い、投資判断時に考慮しています。
既存投資物件の運用管理の一環として、「省エネ推進委員会」及び「省エネ推進分科会」においてエネルギー消費状況をモニタリングし、エネルギー使用の合理化に向けた運用改善、設備改修の検討と実施を行っています。例えば、電気使用量のピークを迎える夏季(4月~9月)の電気使用量を確認し、前年比+5%以上となった物件については要因分析を行い、運用改善策を検討しています。
各不動産において5年分の中長期修繕計画を作成しており、予定されている工事のうち省エネ効果が期待できるものについては、エネルギー専門家による省エネ効果の検証をしています。
不動産の運用管理におけるエネルギー使用の合理化を進めるにあたっては、それぞれの現場において運用管理を担当するすべてのプロパティ・マネジメント業務発注先に対して、環境方針ならびにサプライチェーンにおけるESG基本方針(2022年3月にサステナビリティ方針ならびにサプライチェーンにおけるサステナビリティ基本方針に改定)の順守を要請しており、同意書を取得しています。
一部の不動産では、テナントが独自にエネルギー消費管理を行っており、UURが管理権限を持たないため、エネルギー消費状況の把握も困難な範囲があります。
一部の不動産においては、太陽光パネルを屋根面に設置することで再生可能エネルギーを生成しています。生成した再生可能エネルギーは外部へ売電することで、経済的メリットを得ています。UURでは、保有する不動産の特性に鑑み、経済性を確保できる限りにおいて再生可能エネルギーの活用を検討していく方針です。なお、UURのスポンサーである丸紅グループでは、発電事業や省エネ事業に取り組んでいることから、将来的に蓄電池の活用やグリーン電力への切り替え(敷地外再生可能エネルギーの購入)の可能性も検討しています。
上記に述べた取り組みの成果や、保有する不動産の環境・社会配慮の状況について客観性や信頼性を高めることを目的に、第三者による外部認証や評価の取得を進めています。UURでは、建物レベルの認証ではDBJ Green Building認証、CASBEE不動産評価認証、BELS評価を活用しており、ファンドレベルのESGベンチマークとしてGRESBに毎年参加しています。
こうした成果は、ESGを重視する投資家、レンダー、テナント等に向け積極的に発信を行うとともに、認証取得物件をグリーン適格資産と位置づけてグリーンファイナンスに活用し、資金調達先の多様化に役立てています。
SASB 開示指標 コード |
開示指標 | ポート フォリオ 全体 |
オフィス | 商業施設 (中・小型) |
商業施設 (大型モール) |
ホテル | それ以外 | 単位 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
IF-RE-140a.1 | 取水量データ カバー範囲(注1) |
92.5% | 97.6% | 92.6% | 100.0% | 97.9% | 73.1% | 床面積による% |
水ストレスの高い 地域における データカバー範囲 |
現時点で水ストレスが高い、或いは極めて高い地域に所在する不動産はありません(注3) | |||||||
IF-RE-140a.2 | データカバー範囲に おける総取水量 |
2,319 | 452 | 115 | 308 | 1,373 | 71 | 1000m2 |
うち水ストレスの 高い地域における 取水量の割合 |
現時点で水ストレスが高い、或いは極めて高い地域に所在する不動産はありません(注3) | |||||||
IF-RE-140a.3 | 取水量の 同一条件比較(注2)に よる前年比変化率 |
+15.9% | ▲4.8% | +10.8% | ▲1.9% | +61.6% | ▲1.5% | % |
同一条件比較の 対象カバー範囲 |
89.7% | 96.7% | 90.5% | 100% | 96.6% | 70.9% | 床面積による% |
水消費状況の管理について、UURの保有する不動産は日本国内の主要都市及びそれぞれの周辺部のみに立地しており、現時点で水ストレスの高い地域(WRI AqueductにおけるBaseline Water Stress項目が「Extremely high risk」もしくは「High risk」に該当する地域)に所在する不動産はありません。しかし、天候による影響等で局地的・一時的な水不足が発生し、給水制限等に至った場合は、物件の運営に影響が生じる可能性があります。また、ほぼすべての不動産において地域の公共水道から上水を購入して使用しているため、購入する上水量の増減は、物件の収益性に影響を及ぼす可能性があります。こうした理由から、UURでは不動産の運用管理において水利用の効率化や、中水(再生水)の利用による上水使用量の削減を推進しています。
保有する不動産で使用した水の排水に関して、UURでは、物件取得時のデューデリジェンスプロセスおよび取得後のモニタリングにおいて、不動産の排水設備状況や環境法令違反のリスクの有無を確認しています。現時点で、排水や水処理に関する環境法令違反等を引き起こすおそれは低いものと認識しています。
SASB 開示指標 コード |
開示指標 | ポート フォリオ 全体 |
オフィス | 商業施設 (中・小型) |
商業施設 (大型モール) |
ホテル | それ以外 | 単位 |
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IF-RE-410a.1 | 省エネ改修等に関する コスト分担条項を含む 新規賃貸契約 (グリーンリース)の 割合(注1) |
49.9% | 100.0% | 29.1% | 75.7% | 100% | 0.0% | 床面積による% |
上記に該当する 新規賃貸契約面積 |
69,670 | 7,306 | 1,056 | 59,942 | 1,366 | 0 | m2 | |
(Option) | 全賃貸契約面積に おけるグリーンリース 契約締結割合(注2) |
21.1% | 52.2% | 1.5% | 29.4% | 1.2% | 0.0% | 床面積による% |
IF-RE-410a.2 | 電力消費量を サブメータにより 個別計測している テナントの割合(注3) |
90.6% | 97.7% | 100.0% | 100.0% | 100.0% | 69.2% | 床面積による% |
取水量をサブメータで 個別計測している テナントの割合(注3) |
90.6% | 97.7% | 100.0% | 100.0% | 100.0% | 69.2% | 床面積による% |
UURでは、不動産の環境負荷のモニタリングと管理の一環として、新規賃貸契約時や更新時には、エネルギー消費データ/水消費データをオーナーとテナントで相互に共有することを定めたグリーンリース契約や覚書を締結しています。
多くの不動産において、テナント専用部での電力/水消費量はスマートメータや個別メータで計量され、その計測量はテナントへ個別にフィードバックされています。その数値に基づきテナントへ水光熱費の請求を行っており、テナントによる自主的な省エネ/節水への取り組みが自身の経済的インセンティブにもつながる賃貸契約形式を採用していると言えます。こうした賃貸スキームのもとでは、UURが建物の環境負荷低減に取り組んでいることが、テナントの水光熱費に関わる金銭負担の軽減につながり、入居率の維持・向上にもプラスの影響がもたらされることを期待できます。
また、すべてのテナントに対してUURの環境方針ならびにサプライチェーンにおけるESG基本方針を書面で通知し、サステナビリティ配慮への理解と協力についてコミュニケーションする機会を設けています。一部の不動産では、テナント専用部フロアで使用している照明のLED化改修工事をテナントの協力のもとで実施し、それによる光熱費削減メリットをテナントとUURで共有しました。
SASB 開示指標 コード |
開示指標 | ポート フォリオ 全体 |
オフィス | 商業施設 (中・小型) |
商業施設 (大型モール) |
ホテル | それ以外 | 単位 |
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IF-RE-450a.1 | 100年以内に洪水の 危険性がある地域に 所在している 物件面積(注1) |
346,326 | 196,343 | 11,425 | 12,224 | 46,431 | 79,904 | m2 |
UURでは、気候変動に関連する事業上のリスクと機会について分析を行い、以下を主要なものとして認識しています。
建物や人口が集中する主要都市部の不動産は比較的標高の低い地域や沿岸部に存在することが多いため、洪水災害のリスクを有しています。上記指標IF-RE-450a.1で報告している通り、現時点ではポートフォリオのおよそ18%(床面積ベース)が、洪水リスクのエクスポージャーを有します。
気候変動が大きく進んだ場合(例:IPCC RCP8.5シナリオ)、豪雨被害の増加や海水面の上昇によって洪水リスクが高まり、水災に対する備えを増強するための費用の増加、保険料の上昇により、財務的な影響が出る可能性があります。また、洪水リスクを有するエリア自体が増え、エクスポージャーが高まる可能性もあります。
同様に、気候変動により平均気温の上昇や猛暑日の増加が起こると、建物の空調機能の増強のための追加的コストの発生や、光熱水費の増加といった財務的影響が懸念されます。
物理リスクのうち、台風、豪雨等の突発的な気候災害(急性の気候災害)のリスクは既に顕在化しつつある可能性があります。UURのポートフォリオにおいても、2019年度に極端な天候による被害が実際に発生した物件がありました。RCP8.5シナリオでは、現在から2100年の間に、これらの気候関連災害の頻度と重大度が増加する可能性があるとされます。
気候災害リスクは、資産に対する物理的損害、維持改修費用や保険料の上昇という財務的影響のほか、テナントの選好へも影響を与えうると認識しています。災害発生時には、そのリスクがテナントにおいて強く認識され、そのエリアや同様の用途、形状をした建物が忌避される可能性があります。一方で、気候災害リスクに十分備えた不動産であるとテナントから評価されれば、長期的な安定稼働を期待できます。UURではこうした認識のもと、物理リスクの低減と収益安定化の機会の実現を図るため、保有不動産における災害対策の充実による気候変動への適応に取り組んでいます。
日本において、既に建築物に対してそのエネルギー効率性や炭素排出量に対する政府等による法規制が存在していますが、現時点ではUURの不動産において著しい規制対応コストは生じていません。しかし今後、パリ協定目標の達成のために政府がその規制レベルを引き上げる政策や、炭素排出に課税を行う政策等を導入した場合、エネルギーコストの上昇や、規制に対応するための設備負担等が増加する可能性があります。フランス、英国、ドイツ等の欧州各国や、NY市や東京都等、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを掲げる政府や自治体が国内外で増えつつあるため、こうした政策方針が具体化されていった場合には、今後30年間で規制強化のリスクが顕在化してくるものとみられます。
また、低炭素・脱炭素社会への移行が進んだ際には、テナントの選好、投資家の選好、社会からの評判等において、UURのポートフォリオのグリーン性が一層考慮され、結果として物件の収益性、資金調達状況等に影響を与える可能性があります。現時点でも、環境認証取得物件に対して賃料プレミアムが存在していることを示す調査結果があり、また、グリーンボンド/グリーンローン等の資金調達手法が普及しつつあります。将来的には、こうした「グリーン・プレミアム」だけでなく、グリーン性が乏しい不動産に対する「ブラウン・ディスカウント」が発生するリスクも考えられます。
UURではこうした認識のもと、ポートフォリオの運用段階において、エネルギー消費状況等の環境負荷の管理や効率化に向けた取り組みと、環境認証の取得によるポートフォリオのグリーン化を進めており、規制リスクによる財務的影響の低減と、ESGに感度の高いテナント・投資家等からの評価向上を図っています。特に、環境負荷の軽減は建物運用コストの削減という直接的な財務的メリットをもたらすビジネス機会であると認識しています。